毎年のこと、9月の最終釣行はいつもと違う気合が入る。その前の一週間、毎日気象情報とニラメッコしていた。適度な降雨が欲しかったのだが、どうやら山間は晴れ続きの模様。
こうなると、水位次第で何処が期待できるか?
幾つか候補を頭の中でピックアップして、あとは現地の水加減で判断しようと、暗いうちから現地入りした。
朝一番のポイントで、40クラスの鼻曲り婚姻色が掛かった!
・・がしかし、しばしのヤリトリの後、バラし・・・・・
「ぐわー!〆に相応しい魚だったのに・・・!」って叫んでみても後の祭り。
しかし、選んだ流域は間違っていないな?
ある淵のカケアガリから、それは現れた。
チョコン、と小さなアタリに竿を煽ると、巨大な魚が反転!!
白波の中をドドドドッ!!と一気に突進する重量感、凄いパワーだ!
「何だこれ?? ホントにアマゴか?!」
下流に行かれたら、まず絶対に上がらない。
腰を落とし、竿尻をギリギリまで下げて、竿全体を弓形に曲げたまま、魚の下流側に移動。
よし、とりあえずポジションは取った。
普通はこれで耐えていれば、魚が流れに押されて下った際に捕れる。しかし・・白波から魚体が出たと思ったら、「ドン!」とヤツはハイジャンプ!!
また潜って、そして更にジャンプ!!ジャンプ!!!
凄ぇ迫力だ。獣のような黒い顔に並ぶ牙。それが赤く染まった全身を見せて飛び上がる!
こりゃイカン。全然弱まる気配が無い。鳥肌が立ちそうな緊張感!
焦ったら負ける。こんだけ暴れられても外れないところを見るに、ハリはガッチリと立ってるはず。
落ち着け、持久戦だ・・!
暖流に寄せ、一気に取り込み!
・・・のはずが、タモに入りきらない!!
枠からはみ出した魚体はまたも深場へ突進!
マズイ! 下流側に行かれる!!
体を捻って再度竿を絞ろうとして、何と、転倒。
全身ずぶ寝れ、膝と脛を強打したが・・痛くも寒くもない。と言うより、そんな事考えてる場合じゃない!
よ~し、こうなりゃもう一回寄せてやる!
どうする?タモに入りきらないし、ずり上げるような浅瀬も無い。
こうなったら、タモに頭だけ入れて、尾鰭を掴んで獲るか?
キンキンに緊張している割に、幾分冷静に考えている自分が不思議だ。
52センチ。 完璧な秋色の魚体・・!
何分くらいヤリトリしただろうか?
膝が震え、肩で息をしている自分の前に、巨魚が横たわった。
発達したヒレ、体の厚み、どれを見ても非の打ち所がない。
これは力強い泳ぎをするわけだ。
「夢」に手が届いた、そんな感覚で、しばし河原で呆然としてしまった。
秋の魚が好きで、その出会いを求めてずっとこの釣りをしてきた。その頂点を見るかのような出会い。
世にはもっと凄い魚も居るかもしれない。しかし目の前のこの個体は、今の私にはあらゆる意味でナンバーワンなのだ。
掛けるまでのプロセスも、掛けてからの攻防も、自分の経験の全部が試されるような。そして今まで積み上げたものを超えること、それが魚を捕ることで完結する。
これが大きな感動となり、一部始終が記憶に深く刻まれる。
渓流魚で40センチと言えば、一つの「壁」。
それが50センチ超えとなると、「幻クラス」(私のイメージで)。
時折話に聞くサイズではある。百聞は一見にしかずと言うように、実物の迫力は画像や動画から感じるそれとは段違いだ。
目の前に自分が取り込んだ魚が居る、この現実が妙に信じられない感覚。
野生の姿を上手く形容する言葉も見つからない。
貧しいボキャブラリーを駆使しても「凄い魚」としか言い様が無い。
狙ってなかったと言えば嘘になるし、狙っていたと言っても何だか違う。
本当に出ると思っていなかった、のが正直なところ。
この魚との出会いまでを整理してみると。
今年は梅雨明けから夏にかけて降雨が多く、気温を含め、季節の巡りの早さを8月後半から感じていた。
釣れてくる魚の色付きが早かったので、婚姻色の大物を狙うには、今年は好機とも思えた。
そこで足を使い、秋の魚の付き場を探し歩いていた。いや、付き場を探すのは別に夏に始めた事ではなく、春先からずっと、なのだが。
特に夏以降は、魚の反応の出る場所と、その姿から、最終形態の居場所を想像し、追跡するわけだ。
この個体が掛かったのは、何かの偶然の重なりもあったのだと思う。それでも場所も含めて、自分の読みが当たった、その実感はあった。
掛けてからの抵抗を捌けたのは、これまでの経験値。数年前の自分なら、大型とのヤリトリの経験の少なさゆえに、切られるかバラすかしただろう。
過去にアマゴ釣りでは感じた事のない、強烈な手応え。同時にかつてない緊張と興奮だった・・・。
かなり名残惜しいが、弱ってしまう前に流れに帰したかった。
ありがとう!
本当に良く出てくれた! 沢山の子孫を残してくれよ!!
・・・・・・
ずぶ濡れの体だし。一旦車に戻って着替えよう。
ついでに朝ごはんを食べ、何となくマッタリしてしまった。
もう帰っても良いか、って少しは考えたのだけど、まだ朝だし。
もう一度竿を持って釣りに出ようとした際、ようやく膝と脛の痛みに気が付いた。
「アドレナリン」って、強度の興奮状態になると、本当に出てるんだね。痛みも寒さもさっきまで感じなかったんだから。
尺上の渓魚たち。
例年であれば、どれも〆の魚として十分な個体だ。
勿論、どの出会いも嬉しい。最終幕に尺上5本とは、上出来だし。
しかし今年のラストばかりは、「夢の魚」のインパクトが強過ぎた。
同じく鼻曲りの婚姻色でも、こうも違うものかと。
手にして初めて知った、50を超す魚の格別な迫力。
もう今シーズンは何も言う事は無い。
最高に気持ちよく〆られた。出会えた全てに感謝!
こんな魚にはもう一生出会わないかも知れないし、もっと凄い魚が出てくれるかも知れない。
次の夢を求めて、また来シーズン以降も釣りに行こう。
2017・渓流シーズンはこれで終幕。
充実感と満足感に浸れた、本当に素晴らしいシーズンだった。
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